ク•ビレ邸の秘かな愉しみ

北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(大阪市)の情報発信拠点「ク・ビレ邸」で開催されるイベントに関する極秘ニュース。決して他言は許されませんのでご注意あそばせ!

日本人特有の節回しでジャズを歌う女優

◉邸主の妄言 PREVIEW◉

2012年末ライブより近藤泰代(vo、左)松本有加(pf)

2012年末ライブより
近藤泰代(vo、左)
松本有加(pf)

北加賀屋(大阪市住之江区)在住のピアノ・プレーヤー、松本有加が気になるボーカリストとセッションする月例の「ジャズ千夜一夜」。今回はク・ビレ邸の歌姫「近藤泰代」が登場する。両名のプレイについては既出の記事(「最早ク・ビレの歌姫!ジャズで暑気払い」2012.08)を読んでいただくとして、新年早々、二人のライブが聴けるのは縁起がいい。さらに今回、ゲストとしてもう一組のユニットがこのライブを盛り上げてくれる。西原希蓉美(vo)とMasataka Nasada(pf)だ。

アート・プロジェクト集団「鞦韆舘(しゅうせんかん)」が運営するク・ビレ邸で、水曜日のカフェ&バー・スペースを担当してくれているのが西原希蓉美である。近隣の常連さんとはすっかり顔馴染みだが、大阪の小劇場演劇界ではもっと知名度がある。若手から中堅まで多数の劇団にゲスト参加していて、彼女を知らない演劇ファンはいないかも知れない。もちろん私自身が演出した演劇作品にも何度も出演してもらったし、ク・ビレ邸では「ペーパームーン劇場」という朗読劇に参加してもらった。私が西原希蓉美を演出したい理由は、彼女の稀有な歌唱力にある。それはボーカリストとしての表現力で、だから出演してもらった演劇では、いつも私自身の曲や彼女の持ち歌を歌ってもらうことにしている。

西原希蓉美 「カロウルエの街」(2011)より

西原希蓉美
「カロウルエの街」(2011)より

西原希蓉美の歌声を聴いたことある方は口を揃えて「上手い」と言う。では何がどう上手いのだろうか。私自身、作曲家であるからには、ここで自分なりの分析した「西原希蓉美に関する3つの事柄」を論じてみたい。まず1つめは「音程がよくズレる」こと。私の演出作品の際、リハーサルでよく注意したつもりだが、とにかく音程にバラツキがある。2つめは「リズムが前につんのめる」こと。16ビートの曲を歌ってもらった際に驚いたのだが、かなり前ノメリに歌うクセがある。ここまで書けば「それのどこが上手い?」と思われる方が多いと思うが、3つめを説明すれば、納得してもらえるかも知れない。それは「節回しが演歌的」であること。実はこの3つめが最大の特長で、彼女の歌唱力に直結している。

演歌の節回しは、音楽の授業で習った「ベルカント唱法」とはまったく違う。喉の奥を広げ、アタマのテッペンから声を出す後者と違い、前者は喉を締め付けたり、振るわせたりして声に色をつける。だから演歌の歌い手の多くは、西洋の音階から少しズラシた音程で歌うことができる。これは元来、日本人固有の音階が西洋の「ドレミファソラシド」と一致していないことによる。くわしくは音楽家・町田佳聲の著作を参照してほしい。演歌の節回しが得意であろう西原希蓉美も例にもれず、西洋の音階から少しズラシた音程で歌ってしまえるのである。しかし残念なのは、演歌なら最大の武器であるこの節回しも、欧米風のポップな曲をひとたび歌えば、音がハズレているように聞こえてしまうことである。

西原希蓉美旧・鞦韆舘でのライブ

西原希蓉美
旧・鞦韆舘でのライブ

次にリズムだが、西洋人と日本人には大差があることはよく知られている。特に黒人が得意とする16ビートの曲を歌うともなると、彼ら特有の後ノリで歌える日本人は数少ないだろう。もし黒人に限りなく近く歌えたとしても「日本人離れした」との評価を受けるだけで、黒人のノリからはやはり遠いままなのである。一方、演歌をライブで聴くとすぐ判るのだが、多くの歌い手は歌い出しと曲の終わりで、歌のテンポが違っている。つまり1コーラス目よりも3コーラス目の方がスピード、つまりテンポが速くなっているのだ。このことはお祭の囃子、太鼓のテンポが、最高潮に向かうにつれてだんだん速くなるのと共通している。くわしくは音楽家・小泉文夫の著作を参照してほしい。

西原希蓉美ク・ビレ邸で演歌を熱唱

西原希蓉美
ク・ビレ邸で演歌を熱唱

このように西原希蓉美は演歌の節回しをするからこそ、欧米チックな曲を歌うと「音程がズレ」て「リズムが前につんのめる」ように聴こえてしまうのである。しかし演歌独特の節回しがあるので、日本人の我々にとっては「上手い」と感じられる。冒頭に書いたように、多くの聴衆が西原希蓉美の歌を「上手い」と思っているけれど、それをなかなか、説明できない理由はここにあったのだ。実際、彼女は演歌のCDもリリースしているのだが、これがとても魅力的な作品なので、ぜひ一度、聴いていただきたい。その彼女が、ク・ビレ邸でジャズを歌うという。これまた突飛な挑戦だ。チャレンジ精神には脱帽するが、美空ひばりがジャズを歌っているのを初めて聴いたときの印象と、どれほど違うか私自身の耳で確かめてみたい。もちろん、幼少の頃から西洋音楽に慣れ親しんできた松本有加のジャズ・フィーリングとの対比も一聴に値するだろう。

蛇足かも知れないが、私は西原希蓉美のことを「芙蓉蟹(ふうようはい)」のニックネームで呼ばせてもらっている。彼女が「かに玉」を好きだからではない。彼女の名前に「蓉」の字が使われていて、すぐさま「芙蓉蟹」が浮かんだ、ただそれだけの理由である。

(文責・佐藤香聲

◉ 松本有加のジャズ千夜一夜 vol.12

【演   奏】松本有加(pf)+近藤やすよ(vo)
       西原希蓉美(vo)+Masataka Nasada(pf)

【日   時】2013年1月27日(日) 開場:19:00 開演:20:00

【料   金】2,000円(1ドリンクつき)

【問い合わせ】06-7492-7504(17:00 – 22:00)

【参照サイト】yucacacacablog*よみちゃん日記

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